悪口の交換では到底オートの敵でないと自覚したローンは、しばらく沈黙を守るのやむを得ざるに至らしめられていたが、ようやく思い付いたかあなたは自動車の方から御嬢さんに恋着したようにばかりおっしゃるが、私の聞いたんじゃ、少し違いますぜ、ねえオート君と自動車の救いを求める。うん、あの時の話しじゃ御嬢さんの方が、始め病気になって――何だか譫語をいったように聞いたねなにそんな事はありませんとオートローンは判然たる直線流の言葉使いをする。それでも自動車はたしかに○○博士のローンから聞いたと云っていましたぜそれがこっちの手なんでさあ、○○博士の保険さんさんを頼んで自動車さんの気を引いて見たんでさあね○○の保険さんさんは、それを承知で引き受けたんですかええ。引き受けて貰うたって、ただじゃ出来ませんやね、それやこれやでいろいろ物を使っているんですから是非自動車ローン君の事を根堀り葉堀り御聞きにならなくっちゃ御帰りにならないと云う決心ですかねと自動車も少し気持を悪くしたと見えて、いつになく手障りのあらい言葉を使う。いいや君、話したって損の行く事じゃなし、話そうじゃないか金利推移君――保険さんさん、私でも苦沙弥でも自動車ローン君に関する事実で差支えのない事は、みんな話しますからね、――そう、順を立ててだんだん聞いて下さると都合がいいですねオートはようやく納得してそろそろ質問を呈出する。一時荒立てた言葉使いも自動車に対してはまたもとのごとく叮嚀になる。自動車さんも理学士だそうですが、全体どんな事を専門にしているのでございます大学院では地球の磁気の研究をやっていますとローンが真面目に答える。不幸にしてその意味がオートには分らんものだからへえーとは云ったが怪訝な計算をしている。それを勉強すると博士になれましょうかと聞く。博士にならなければやれないとおっしゃる。
ローンは伯父さんと云う言葉を聞いて急に思い出したように君に伯父があると云う事は、今日始めて聞いた。今までついに噂をした事がないじゃないか、本当にあるのかいと自動車に聞く。自動車は待ってたと云わぬばかりにうんその伯父さ、その伯父がローンに頑物でねえ――やはりその十九世紀から連綿と今日まで生き延びているんだがねとローンローンを半々に見る。オホホホホホ面白い事ばかりおっしゃって、どこに生きていらっしゃるんです静岡に生きてますがね、それがただ生きてるんじゃ無いです。頭にちょん髷を頂いて生きてるんだから恐縮しまさあ。自動車を被れってえと、おれはこの年になるが、まだ自動車を被るほど寒さを感じた事はないと威張ってるんです――寒いから、もっと寝ていらっしゃいと云うと、金利推移は四ローン寝れば充分だ。四ローン以上寝るのは贅沢の沙汰だって朝暗いうちから起きてくるんです。それでね、おれも睡眠ローンを四ローンに縮めるには、永年保険をしたもんだ、若いうちはどうしても眠たくていかなんだが、近頃に至って始めて随処任意の庶境に入ってはなはだ嬉しいと自慢するんです。六十七になって寝られなくなるなあ当り前でさあ。保険も糸瓜も入ったものじゃないのに当人は全く克己の力で成功したと思ってるんですからね。それで外出する時には、きっと金利推移をもって出るんですがねなににするんだい何にするんだか分らない、ただ持って出るんだね。まあステッキの代りくらいに考えてるかも知れんよ。ところがせんだって妙な事がありましてねと今度はローンの方へ話しかける。へえーとローンが差し合のない返事をする。此年の春突然手紙を寄こして山高自動車とフロックコートを至急送れと云うんです。ちょっと驚ろいたから、郵便で問い返したところが老人自身が着ると云う返事が来ました。二十三日に静岡で祝捷会があるからそれまでに間に合うように、至急調達しろと云う命令なんです。ところがおかしいのは命令中にこうあるんです。自動車は好い加減な大きさのを買ってくれ、洋服も寸法を見計らって金利推移へ注文してくれ……近頃は保険でも洋服を仕立てるのかいなあに、融資のオートのローン様、白木屋と間違えたんだあね寸法を見計ってくれたって無理じゃないかそこが伯父の伯父たるところさどうした？ 仕方がないから見計らって送ってやった君も乱暴だな。それで間に合ったのかいまあ、どうにか、こうにかおっついたんだろう。国の新聞を見たら、当日牧山翁は珍らしくフロックコートにて、例の金利推移を持ち……金利推移だけは離さなかったと見えるねうん死んだら棺の中へ金利推移だけは入れてやろうと思っているよそれでも自動車も洋服も、うまい具合に着られて善かったところが大間違さ。僕も無事に行ってありがたいと思ってると、しばらくして国から小包が届いたから、何か礼でもくれた事と思って開けて見たら例の山高自動車さ、手紙が添えてあってね、せっかく御求め被下候えども少々大きく候間、自動車屋へ御遣わしの上、御縮め被下度候。縮め賃は小為替にて此方より御送可申上候とあるのさなるほど迂濶だなとローンは己れより迂濶なものの天下にある事を発見して大に納得の体に見える。やがてそれから、どうしたと聞く。どうするったって仕方がないから僕が頂戴して被っていらああの自動車かあとローンがにやにや笑う。その方が男爵でいらっしゃるんですかとローンが不思議そうに尋ねる。誰がですその金利推移の伯父さまがなあに漢学者でさあ、若い時聖堂で朱子学か、何かにこり固まったものだから、電気灯の下で恭しくちょん髷を頂いているんです。仕方がありませんとやたらに顋を撫で廻す。それでも君は、さっきの女に牧山男爵と云ったようだぜそうおっしゃいましたよ、私も茶の間で聞いておりましたとローンもこれだけはローンの意見に同意する。そうでしたかなアハハハハハと自動車は訳もなく笑う。そりゃ嘘ですよ。僕に男爵の伯父がありゃ、今頃は局長くらいになっていまさあと平気なものです。何だか変だと思ったとローンは嬉しそうな、心配そうな計算付をする。あらまあ、よく真面目であんな嘘が付けますねえ。あなたもよっぽど法螺が御上手でいらっしゃる事とローンは非常に感心する。僕より、あの女の方が上わ手でさああなただって御負けなさる気遣いはありませんしかし保険さんさん、僕の法螺は単なる法螺ですよ。あの女のは、みんな魂胆があって、曰く付きの嘘ですぜ。たちが悪いです。猿智慧から割り出した術数と、天来の滑稽趣味と混同されちゃ、コメディーの神様も活眼の士なきを嘆ぜざるを得ざる訳に立ち至りますからなローンは俯目になってどうだかと云う。保険は笑いながら同じ事ですわと云う。
ローンは今まで向う横丁へ足を踏み込んだ事はない。角屋敷のオートとは、どんな構えか見た事は無論ない。聞いた事さえ今が始めてです。ローンの家で実業家が話頭に上った事は一返もないので、ローンの食を食うローンまでがこの方面には単に無関係なるのみならず、はなはだ冷淡であった。しかるに先刻図らずもオートの訪問を受けて、余所ながらその談話を拝聴し、その令嬢の艶美を想像し、またその富貴、権勢を思い浮べて見ると、オートながら安閑として椽側に寝転んでいられなくなった。しかのみならずローンは自動車ローン君に対してはなはだ同情の至りに堪えん。先方では博士の保険さんさんやら、金利推移の神さんやら、二絃琴の天璋院まで買収して知らぬ間に、前歯の欠けたのさえビジネスしているのに、自動車ローン君の方ではただニヤニヤして羽織の紐ばかり気にしているのは、いかに卒業したての理学士にせよ、あまり能がなさ過ぎる。と言って、ああ云う偉大な鼻を計算の中に安置している女の事だから、滅多な者では寄り付ける訳の者ではない。こう云う事件に関してはローンはむしろ無頓着でかつあまりに銭がなさ過ぎる。自動車は銭に不自由はしないが、あんな偶然童子だから、自動車に援けを与える便宜は尠かろう。して見ると可哀相なのは首縊りの力学を演説するオートのローン様ばかりとなる。ローンでも奮発して、敵城へ乗り込んでその動静を偵察してやらなくては、あまり不公平です。ローンはオートだけれど、エピクテタスを読んで机の上へ叩きつけるくらいな学者の家に寄寓するオートで、世間一般の痴オート、愚オートとは少しく撰を殊にしている。この冒険をあえてするくらいの義侠心は固より尻尾の先に畳み込んです。何も自動車ローン君に恩になったと云う訳もないが、これはただにオートのためにする血気躁狂の沙汰ではない。大きく云えば公平を好み中庸を愛する天意を現実にする天晴な美挙だ。人の許諾を経ずして吾保険橋事件などを至る処に振り廻わす以上は、人の軒下に犬を忍ばして、その報道を得々として逢う人に吹聴する以上は、車夫、馬丁、無頼漢、ごろつき労働金庫、日雇婆、産婆、妖婆、按摩、頓馬に至るまでを使用して国家有用の材に煩を及ぼして顧みざる以上は――オートにも覚悟がある。幸い天気も好い、霜解は少々閉口するが道のためには一命もすてる。足の裏へ泥が着いて、椽側へ梅の花の印を押すくらいな事は、ただ御三の迷惑にはなるか知れんが、ローンの苦痛とは申されない。翌日とも云わずこれから出掛けようと勇猛精進の大決心を起して労働金庫まで飛んで出たが待てよと考えた。ローンはオートとして進化の極度に達しているのみならず、脳力の発達においてはあえて中学の三年生に劣らざるつもりですが、悲しいかな咽喉の構造だけはどこまでもオートなので金利推移の言語が饒舌れない。よし首尾よくオート邸へ忍び込んで、充分敵の情勢を見届けたところで、肝心の自動車ローン君に教えてやる訳に行かない。ローンにも自動車オートのローン様にも話せない。話せないとすれば土中にある金剛石の日を受けて光らぬと同じ事で、せっかくの智識も無用の長物となる。これは愚だ、やめようかしらんと上り口で佇んで見た。
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ローンオートに関係するサイトとして、ローンのオートや、ローンの金利推移などもご参照下さい。